相続人の一部を除外して行った遺産分割協議の効力について

 遺産分割協議は、共同相続人全員の合意に基づくべきものとされていますので、共同相続人の一部を除外してなされた場合、その効力が問題となります。この点、相続の開始後認知によって相続人となった者がある場合については、民法910条が「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」としており、被認知者は遺産分割の無効を主張することができず、他の相続人に対して価額請求することができるにとどまります。

相続の開始後認知の場合以外で共同相続人の一部を除外して遺産分割協議がなされた場合について、判例は、母の死亡による相続に係る遺産分割がなされた後に共同相続人の存否が明らかになった事案について、民法910条の類推適用を否定しており(最判昭54.3.23)、これは母又は子の死後に母子関係が明らかになった場合のほか、被相続人との離縁や離婚の無効が明らかになった場合も同様と解されています。

参考判例

・当事者の意思に基づかない離婚届が受理されたことによる協議離婚は、その無効を確認する審判又は判決の確定を待つまでもなく、当然無効というべきであるから、審判又は判決の確定前においても、無効な協議離婚後にされた婚姻の取消しを請求することは許されると解するのが相当である(最判昭53.3.9)

・民法910条は、取引の安全と被認知者の保護との調整を図る規定ではなく、共同相続人の既得権と被認知者の保護との調整を図る規定であって、遺産分割その他の処分のなされたときに当該相続人のほかに共同相続人が存在しなかった場合における当該相続人の保護を図るところに主題があり、第三取得者は前記相続人が保護される場合にその結果として保護されるのにすぎないのであるから、相続人の存在が遺産分割その他の処分後に明らかになった場合については同法条を類推適用することができないものと解するのが相当である(最判昭54.3.23)。