貸金債権の相続について

貸金債権を相続する場合には、債権が遺産分割の対象となるかが問題となります。この点判例としては、被相続人が相続開始時に有していた貸金債権は、給付が可分である以上(可分債権)、相続開始とともに当然分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属することになるため、遺産分割の対象とならないとしています(相続人数人ある場合において、その相続財産中に可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。最判昭29.4.8)。

ただ、貸金債権を遺産分割の対象とする方法として、相続人全員が遺産分割の対象に含めると合意する方法があります。

この点審判例でも、分割の効果を第三者に主張するためには対抗要件を具備することの必要性があるとしても、合意により債権を分割することが相続人間の具体的衡平の実現を可能ならしめる場合には、遺産分割審判の対象となるとしたもの(東京家審昭47.11.15)や、相続人間で債権の帰属を定める必要性が強く認められ、遺産分割手続きが最も適切な法的手段であり、当事者も債権の帰属を遺産分割の審判で定めることに同意している場合には、遺産分割の基準を定めた民法906条の規定の趣旨及び家事審判制度を設けた趣旨も合致するとしたもの(福岡高決平8.8.20)があります。

一方で、相続人間の合意が認められない以上は、預貯金債権を遺産分割の対象としなかった決定例もあります(東京高決平14.2.15)。相続人間の合意については、明示的合意以外にも黙示の合意でも認められると解されますが、争いが生じないよう遺産分割協議書には記載するべきです。なお、相続人間の合意の性質については、性質上の可分債権が不可分債権に転化するとみる立場、各共同相続人が合意によりそれぞれが有する分割債権を集中してその再分配を家事審判手続きに委ねたものとみる2つの立場があります。ただ、最近の判決には「本来の分割債権を、相続人の間では、相続開始時に遡って不可分債権とするとともに、これを再分割する方法又は履行を受けた金銭を分配する方法を遺産分割協議に委ねる旨の意思表示である」(京都地判平20.4.24)と両説を取り入れて判示したものがあります。