妻にすべての遺産を相続させたい場合はどうすればよいでしょうか。

夫婦の多くは、夫が死亡すれば妻はこれからどう生活するか困ってしまいます。遺族年金などはあっても、それだけでは十分とはいえないからです。子がいれば扶養を求めることができますが、核家族化が進んだ現在、面倒をみてくれるとは限りません。ですので、頼りになるのは、まずもって夫の遺産ということになります。

妻の法定相続分は、妻と子が相続する場合には夫の遺産の2分の1ですが、それだけでは生活できるかどうか心配な場合があります。そんな心配が夫にあるのなら、遺言により妻に全財産を相続させたり、法定相続分より多い割合の相続分を指定して相続させることができます。また、自宅が相続により分割されて、妻が家を出なければならなくなる事態を避けるために、妻に自宅をまるごと相続させる内容の遺言や、妻が死亡するまでは遺産分割を禁止する遺言を書く方法も考えられます。

自分の死後の妻の生活について心配なら、妻だけに「すべての財産を相続させる」という遺言をするべきです。ただ、妻に全財産を相続させるという内容の遺言は、他の相続人の遺留分を侵害することになります。遺留分は、法定相続人がこれだけは最低限相続できると保障されている遺産の割合のことです。例えば、相続人が妻と子の場合、子の遺留分は相続財産の4分の1です。妻への全財産の遺贈で子はこの割合を侵害されますので、遺産の4分の1は遺留分として取り戻すことができます。しかし、遺留分に反する内容だからといって、遺言そのものが無効になるものではありません。遺留分を侵害された相続人は侵害している者に対して減殺請求をし、遺留分に満ちるまで取り戻せるだけです。

なお、「妻に全財産を相続させる」という内容の遺言をする場合、死亡後のトラブルを避けるためには、あらかじめ妻以外の相続人にも了解をしてもらっておくことが大切です。妻と子の仲が悪かったり、先妻と後妻の子がいる場合などは別として、妻に相続させた財産はいずれ妻が死亡すれば子が相続できるのですから説得しやすいはずです。また、遺言に「遺留分の減殺請求をしないよう願う」といった付言事項を記載する方法もあります。