様々な遺言書①

こんにちは、司法書士の渡辺憲久です。今回は様々な遺言書について書いていきます。

・身寄りがないので所有する全財産を公益法人等に遺贈する遺言書

相続の際、相続人が一人もいない場合、財産は遺言で別段の指定がなければ国のものになってしまいます。それなら、世話になった団体や面倒を見てくれた人に恩返しをしたという場合には遺言書の作成が必要です。

受遺者(遺贈を受け取る者)が学校の場合、私立学校ならば学校法人、公立学校ならば市区町村あるいは都道府県が受取りの主体となります。このように、受遺者が法人の場合にはよいのですが、同好会などの趣味の団体の場合には、簡単にはいかなくなります。同好会のような法人となっていない団体は、その団体自体が権利の主体として財産を受け取ることができません。とくに団体としての組織、規約、代表者の定めなど主要な点が確定していないと、遺贈された財産を誰がどう処分できるのかが不明確となって、問題が生じる場合があります。そういった場合には、組織の代表格の人などに使途をはっきり示して個人的に遺贈し、不安が残れば遺言執行者をつけるしかありません。また、受遺者は遺贈の放棄をすることができます。遺贈の放棄がされると、その部分は遺言の指定がなかったことになり、遺言者の意思が活かされません。そのためには、遺言者が生前に遺贈を受けてくれるかどうかを確認しておくことが大切です。

なお、相続人がいないので、遺言者の死後、財産の処分を責任もって行ってくれる人が必要です。信頼できる人を遺言執行者に選任し、生前に打ち合わせをしておくことも大事です。また、負担つき遺贈の場合、その負担を受遺者が履行いないときは、相続人が履行の催告及び取消し請求をすることができますが、相続人がいないケースでは、遺言執行者が遺言執行の延長線上にある取消請求をなし得ることになります。

 ・相続人がいないため親しい人に祭祀財産を渡して死後の供養を頼む遺言書

祭祀の承継者がいないと、墓は野ざらしとなり、無縁仏状態となってしまいます。祭祀の承継者は別に相続人に限られているわけではありませんので、遺言者に近い人であれば誰を選んでも構いません。このような、遺言書を作る際には、本当に相続人がいないかどうかを確認する必要があります。あとで相続人が名乗り出てくると争いになる可能性があるからです。また、相続人がいない場合、受遺者が受取を拒否するとその財産は国の物になります。ですので、事前に受遺者に対して受取の諾否の確認が必要です。

系譜、祭壇、墓地、お墓などの祭祀財産は、相続財産とは切り離されて別の扱いとなります。相続順位が上だからといって、当然に祭祀承継者となれるわけではなく、1.被相続人の指定、2.その地方の慣習、3.家庭裁判所の審判、の順で決められることになっています。したがって、祭祀承継者を誰にするかは遺言者が自由に決めることができます。相続人がいない場合には、遺言による遺贈によって相続人以外の人にこれを受け継がせてもよいのです。ただし、実際に法事などをとり行うかどうかは受け手の勝手でもありますから、事前に受け手の了解を得ておく必要があります。

また、遺言で祭祀承継者に指定された人から、祭祀を主宰したり法要を行うのには経費がかかるので、それに当てるために相続財産をよこせというような請求は認められません。ただ、遺言者がそのことを見越して、相続財産を与えることは構いません。注意すべき点としては、祭祀を主宰したり、供養をするということは、ただその旨の希望だけが遺言に書かれてあっても法的な効力を持つものではありません。強制力を持たせるためには、遺贈を受けるかわりに指定された義務をはたすべきこと(負担つき)を明記し、負担付遺贈とすることです。この時、祭祀をつかさどる負担に対応する財産を贈与することを明記し、受贈者の義務をはっきりとさせておきましょう。そして、祭祀の内容について希望することがあれば、具体的に指示を書いてもよいでしょう。

なお、祭祀を承継することになった人に、その土地を離れなければならないなど、やむをえない事情が生じた場合には、祭祀財産を処分することも許されています。不明朗なことを避けるためには、遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。