相続の際遺言があった場合、その遺言と異なる内容の遺産分割ができるのか

こんにちは、司法書士の渡辺です。今回のコラムでは、遺言と異なる遺産分割ができるかどうかについて書いていきます。

まず、遺言の効力を確認しておきましょう。遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます(民法964条)。これを遺贈といいます。遺贈は、遺言によって行われる単独行為であり、死後処分といわれます。遺言とは、人の最終の意思表示であり、なによりも尊重しなければならないものです。しかし、遺言に相続人以外の第三者に遺贈するような内容がない限り、相続人全員がその遺言の内容を了解した上で、遺言の内容と異なる遺産分割を行っても、不利益になる人があらわれるわけではありません。そのため、実務では、遺言と異なる遺産分割協議は多く行われています。判例でも、原則的にこれを認めています。

ただし、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはならないとされ、相続人の権利が制限されています。判例はこの規定に違反した行為は絶対的に無効であるとしています(最判昭62.4.23)。したがって、遺言執行者による遺言執行の必要なケースでは、遺言執行者の同意を得ておく必要があります(東京地判昭63.5.31)。

参考判例

・民法1012条1項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、このような法の趣旨からすると、相続人が同法1013条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の前記処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして前記処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である(最判昭62.4.23)。