家族信託の活用法①(共有不動産の相続・認知症対策)

 こんにちは、司法書士の渡辺です。今回のコラムでは、家族信託の活用法(共有不動産の相続・認知症対策)について書いていきます。

例えば、高齢の兄弟姉妹4人がいますが、昔、父親から相続した賃貸アパートを共有名義で所有しています。古いアパートなので、そろそろ大規模修繕か売却を考えていますが、皆の健康状態が思わしくなく、なかなか進まないというケースがあったとします。

共有名義で不動産を所有していると、共有者のうち1人でも認知症などによって判断能力を失ってしまうと、すぐに売却できなくなってしまいます。また、共有者の誰かに相続が発生すると、亡くなった方の配偶者や子などが相続人となるため、共有の名義人がさらに増えていくことになります。不動産を売却しようと思ったら共有者全員の協力が必要となりますので、こういった場合、売却をするのは大変な作業となります。

そこで、皆が元気なうちに、兄弟姉妹4名を委託者兼受益者、長男の息子を受託者として、家族信託を設定します。なお、兄弟姉妹4名を委託者兼受益者とすることにより、贈与税の問題は生じません。

家族信託を利用することにより、受託者である長男の息子は、アパートの管理を行い、家賃収入を受益者である共有者全員(兄弟姉妹)に分配します。また、アパートの大規模修繕や売却も、長男の息子が受託者として、自由な判断で行うことができるようになります。

万一、兄弟姉妹の誰かが認知症になったとしても、受託者である長男の息子のみで売却が可能となります。また、兄弟姉妹の誰かに相続が発生したとしても、相続されるのは利益の分配を受ける権利である受益権であり、引き続き、長男の息子が受託者としてアパートの管理等を行っていくことになります。

このように、アパートの管理・処分権限は受託者である長男の息子にあるので、共有者の誰かが認知症になったり、相続によって共有者が増えてしまっても、長男の息子がアパートの管理や売却を行うことができます。