家族信託の活用法②(相続、事業承継対策)

 こんにちは、司法書士の渡辺です。今回のコラムでは、家族信託の活用法(相続、事業承継対策)について書いていきます。

例えば、ある父親は、自身が経営している会社を、そろそろ息子に継がせたいと考えています。しかしながら、今すべての株式を譲渡してしまうと、高額の贈与税がかかってしまいます。また、現時点で息子に経営を任せてしまうのも時期尚早であり、もうしばらくの間は、自分が経営を行いたいと考えている、というケースがあったとします。

株式を譲渡してしまうと、父親の懸念どおり、贈与税も発生し、経営権(株式の議決権)もすべて息子に渡ってしまいます。そこで、家族信託を利用することにより、贈与税を発生させずに株式を譲渡しつつ、株式の議決権も残しておくことが可能となります。この場合、父親が元気なうちに、父親を委託者兼受益者、息子を受託者とする家族信託を設定しておきます。

株式の名義については、受託者である息子に移転します。しかしながら、父親を委託者兼受益者とすることにより、税務上、財産の移転がなかったものとみなされるので、贈与税はかかりません。

株式の議決権については、通常の場合、受託者である息子が自由な判断で行使することができます。ただし、今回のケースでは、父親がまだ株式の議決権を行使したいと考えていることから、議決権の行使について息子(受託者)に指図できる「指図権」というものを父親に持たせておきます。

これにより、父親が元気なうちは経営権を行使することができ、万一、認知症などになった場合は、息子に株式の議決権が渡るようにしておきます。多くの株式を保有している経営者が認知症などになってしまうと、議決権が行使できなくなり、経営がストップしてしまうおそれがあります。

今回のケースのように、贈与税を発生させずに株式を譲渡しつつ、自身が元気なうちは株式の議決権を行使できるようにしておけるのは、家族信託の大きなメリットのひとつといえます。