相続人が相続分を相続人以外の者に譲渡した場合

相続分とは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する相続人の割合的な持分をいいます。そして、相続人は、相続開始後遺産分割前の間、自己の相続分を第三者に譲渡することができます(民法905条)。この相続分の譲渡は、遺産分割までに相当の時間を要することが少なくないため、自己の相続分の早急な処分を希望する者のために設けられました。相続分の譲渡をなし得るのは、共同相続人及び包括受遺者です。特定の方式は不要ですが、実務上は書面を残すべきです。

譲受人が相続分の譲受けを主張するために対抗要件の具備が必要か否かについては争いがあります。共同相続人による相続分の取戻権を実行あらしめるためにこれを要するという見解もありますが、立法過程や取引の安全を重視して、これを否定する見解もあり、下級審裁判例は、否定説に立っています(東京高決昭28.9.4)。共同相続人の一部の者が相続分の全部を第三者に譲渡したときは、譲渡人(相続人)に代わり、譲受人(第三者)が遺産分割協議の当事者となります。

登記手続き

相続分の譲渡には遡及効が認められませんので、共同相続人の一人がほかの共同相続人以外の第三者に相続分を譲渡したときは、登記上、被相続人から譲受人である第三者に直接遺産を取得した形を取ることはできません。したがって、まず、共同相続人による相続登記を完了させ、次に、登記原因を「平成○年○月○日相続分の贈与」等として持分移転登記をしていくことになります。

なお、相続分を第三者に譲渡する場合、譲渡人は、法定相続分の相続をしてから第三者に譲渡しますので、相続税に注意する必要があります。また、有償譲渡のときは、譲渡人には併せて譲渡所得の申告が必要になったり、無償譲渡のときは、譲受人に贈与税の申告が必要となったりする場合がありますので、注意が必要です。

参考判例

・相続分の譲渡は、相続財産に対する個別的財産(個々の物又は権利)に関する権利の移転ではないから、これらの個別的権利の変動について定められる対抗要件の規定は適用されないとされた事例(東京高決昭28.9.4)。

・共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることになり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時に遡って被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる(最判平13.7.10)。