遺言書の押印について

 遺言書には、氏名の自書に続けて押印する必要があります。そして、遺言者の押印を欠く自筆証書遺言は、当該自筆証書中に遺言者の押印と同視し得るものがあるなどの特段の事情のない限り、無効とされています。

また、使用する印については、特に制限はなく、実印に限らず、認印でもよいと解されています。また、印章の代わりに指印を用いてもよいと解されています(最判平成元.2.16民集43.2.45)。ただ、当該遺言の有効性が争われた場合に、指印が本人のものであることを立証するのは、対照用の印影が保存されている実印や銀行印等に比較して困難であると考えられますので、実印等の使用が望ましいとされています。

 

参考に以下、上記の最判元.2.16判例の要旨を記載しておきます。

「自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日付及び氏名を自書した上、押印することを要するが、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇印その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押印すること(以下「指印」という。)をもって足りると解するのが相当である。けだし、自筆証書遺言の方式として自書のほかに押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上でその名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、右押印について指印をもって足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の押印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。」