交通事故の損害賠償請求権の相続について

交通事故で被害者が即死しますと、被害者本人が働いて得られるはずの収入が得られなくなります。このような財産的損害の賠償請求権は財産権の一種ですから、権利者の死亡によって当然に相続人に承継されます。問題はその法律構成ですが、判例は、傷害の瞬間に被相続人に損害賠償請求権が発生し、被相続人の死亡によってその権利が相続人に承継されると解しています。

これに対し、精神的損害の賠償請求権(慰謝料請求権)については、死亡者自身の慰謝料請求権は本来的に行使上の一身専属権であって、相続の対象となり得ず、遺族の固有の慰謝料請求権を認めれば足りるとの見解が主張されています。しかし、判例は、ここでも被害者は損害の発生と同時に慰謝料請求権を取得し、これを放棄したものと解しうる特別の事情が無い限り、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることなくこれを行使でき、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰謝料請求権を相続すると解して、その相続財産性を肯定しています。

・参考判例

・被害者が踏切事故で即死し、被害者の逸失利益の損害賠償請求権を家督相続したとして相続人がこれを請求した事案において、損害賠償請求権は、その傷害の瞬時において被害者がこれを取得し、相続により相続人が承継するとされた事例(大判大15.2.16)。

・被相続が自己を被保険者とし、相続人のうち特定の者を受取人と指定して保険契約を締結した場合、被相続人の死亡と同時に保険金請求権は保険契約の効力として当然特定の相続人の固有財産に属するというべきであり、相続財産たる性質を有するものではない(大判昭11.5.13)。

・被相続人が自己を被保険者とし、単に「相続人」を受取人として保険契約を締結した場合、特段の事情のない限り、この指定は、被保険者死亡時の相続人たるべき者個人を受取人として指定した他人のための保険契約と解するのが相当である。このような場合、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱しているものといわねばならない(最判昭40.2.2)。